こちら新宿中央署刑事課
 まだ石松は行方を晦(くら)ましている。


 坂野たち警官にとって、まず追う必要があるのは、石松貴朗だと思われた。


 きっとヤツは何かを知っているはずだ。


 屋上から落下してきたカバンの中に入っているデータ類を物色した人間として。


 現時点で一番容疑が濃い。


 それに本庁から来た警視正の栗川も、彼の部下たちも新宿中央署に合同捜査本部を立てたのはいいが、肝心なところで捜査を進められずにいる。


 多分、栗川たちは的外れだったのだろう。


 自分たちが本庁から出てきて、所轄の建物の中にドーンと捜査本部を設ければ、二つの事件に関して捜査員が動くとでも思っていたのだ。


 だがそれは甘い。


 栗川は若くして警視正職にある。


 仮にこの事件で捜査に失敗したとしても、おわび行脚のように数年間地方の署を転々としさえすれば、また本庁もしくは察庁にまで戻ってこられる身分だ。

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