雪女の背に続け
「……そう。冬矢は百鬼を継いだのか」
桜木神社のように、阿弥樫町は様々な神社が数多く存在する。
数多の神や神の使いを祀り、小さな祠も含めればその数は星の数と比喩してもいい。
だが、この神社はその中で一際変わった存在を祀っていた。
妖怪を祀る神社。そこに、彼はいた。
「別にいいが……いい気はしないな」
ごろりと本堂に寝そべる。
長いまつげがゆっくりと伏せられる。癖の強い黒髪が風に揺れる。
トラツグミがそこにいた。
「トラツグミ様……」
冬矢が二代目を継いだことに気を落とすトラツグミを気遣おうと鴆は声をかける。
しかし、トラツグミは漆黒の瞳を少しこちらに向けるだけ。
「も、申し訳ございません……」
今は話しかけるなと目で語られては、かける言葉などない。ただの謝罪しか出てこない。
トラツグミはこちらに背を向けるよう寝返りを打ち、そのまま眠った。
「…………」
鴆は深くため息をつく。
その様子を、先ほどから二代目襲名の報告に来た妖怪が見ていたことに気付き、慌てて咳払いをしてその妖怪に向き直る。
「これからも、百鬼夜行の動向を逐一報告してほしい」
妖怪はこくりと頷き、夜の闇の向こうへ消えていった。
トラツグミの目は確実に冬矢を捉えていた。