雪女の背に続け
「冬兄……」
すずめは冬矢を見上げる。
言葉とは裏腹に笑っている顔。自信に満ちていた。
「賭けをしましょうか。俺が勝てば俺がほしい百鬼夜行、貴方がたが勝てば貴方がたがほしいものを差し上げます」
彼の言葉は女王に強い衝撃を与えた。
欲しいものがもらえる。百鬼夜行を賭けるに値するほどの物。
冬矢が暗に示している物は間違いなくアレだろう。
女王は目を見開いたまま、冬矢を見つめる。あり得ないと言った表情だ。
「正気……なの?」
「妖刀『氷雪丸』。俺の母が父と作った業物だ。母の妖気がそれには込められている」
母と父の形見。自分に遺してくれた刀。
それに込められた母の妖気。それを雪女達は欲している。
信じているのだ。彼女たちは。
いつの日か九十九神となって彼女がこの世に復活する時を。
そのための刀を彼女たちは欲している。
「……賭けの、内容は?」
「女王様!」
周りの雪女達の声も聞かず、女王は身を乗り出した。
伝説の雪女の妖気がやどる妖刀は喉から手が出るほどに欲しい。
騙そうという気は冬矢の目からは感じられない。本気で、賭けている。
よっぽどの自信があるのか、それともそれをかけるほど必死なのだろうか。
冬矢は神妙な顔で、賭けの内容を告げた。
「『退魔の泉』」
「!」
退魔の泉とは、白魔山のある場所にある泉のことだ。
昔にある陰陽師が自らを守るために作った泉の水は、妖怪に大きな害をもたらす。
半分は妖怪の冬矢にもそれは例外ではない。少なくとも妖怪の力を失う。
「一週間、飲まず食わずで俺が耐えられるかどうか」
彼が提示したのはあまりにも無謀すぎる賭けだった。