雪女の背に続け
「正気なの?」
疑った。冗談にしても度が過ぎている。妖怪は浸かるだけでも耐えられない。
半分人間の冬矢は耐えれても、10日間も飲まず食わずは、人間の限界を超えている。
人間にも妖怪にも不可能な賭けだ。
「そうまでしなければ、乗ってくれないでしょう?」
にこりと冬矢は笑う。
事の重大さを分かっているのかいないのか。
「……」
冬矢の目を見つめる。
紅い瞳はどこまでも深く、血のように鮮やかで、怖れはみじんも感じない。
「…………死ぬことになっても?」
「!」
すずめは女王の言葉に驚愕する。
今まで状況について行けずにいた彼女もその言葉は理解できた。死という事。
これでは命を賭けていることと同じ。
「冬兄、そんな……ダメだよッ!」
慌ててすずめは冬矢の裾をつかんで止める。
だが、冬矢は表情を崩す事はなかった。
「死にませんよ。俺は」
確信している。
その言葉と同時に妖気を感じた。
母と似た冷気を伴う妖気。それは小屋全体を包み込む。
女王は、その妖気に飲まれそうになる。一瞬でも、背筋が凍った。恐れた。
「……乗りましょう。その賭けに」
冬矢の本気は分かった。
もう何も言わない。言えない。
彼は本気で百鬼夜行を欲している。何のためにかは分からない。
だが、すこし面白くも感じていた。
天狗はいずれ町を襲う。
その脅威に彼はどう立ち向かうのか。それを彼の元で見るのも、面白い。
賭けてみようとおもった。
彼がどうするのか。彼は本当に、耐えることができるのか。
力を示す事ができるのか。
賭けは成立した。