雪女の背に続け


後日、冬矢は『退魔の泉』へと案内される。
見た目では水が煌めく美しい泉。

神聖な空気を漂わすその場所は、じりじりと妖気を蝕む。
妖怪にとっては毒に等しい水。


多くの雪女が見物に来た。
泉の水に触れるだけで通常の妖怪は耐えられない激痛が襲う。

「では、始めなさい」

女王の声がその場に行き渡る。
その場がしん、と静まりかえる。冬矢は、一歩一歩、前へと踏み出した。

自分の妖気が削られていくのを感じる。
踏み出すたびに人間に近づく。

一歩、足が水につかる。
全身に痛みが走る。神聖な水は妖怪の自分を苦しめ、人間の自分を癒す。
また、進んでいく。後ろでは雪女達が息をのんでいる。

腰に水がくるまで進んでいく。
痛みに耐えながら進んでいく。

「冷てぇ……」


冬の時期の泉の水は氷のように冷たい。
雪女の血を引く冬矢にとって、冷たいという感覚は知らなかった。

だが、聖水で妖気をそがれ、人間と変わらない今は感じる。
初めて感じる『冷たい』という感覚に身を震わせる。


「……」

胸まで水が来たところで、冬矢は立ち止まった。
ここで、このまま10日間耐え続ける。
このまま立ち続ける。飲まず、食わずの状態で。


後ろでに縛られたロープは岸に立てた杭にくくりつけられる。
もう、ここからは逃げられない。


妖怪の力を無にされ、人間の状態で、耐え続ける。
人間としての体力、気力、でこの極限に耐え続ける。


賭けが始まった。
< 23 / 39 >

この作品をシェア

pagetop