雪女の背に続け
……?
音が聞こえる。徐々に大きくなってゆく。
足音。何かがこっちに来る。
「…………恭子か?」
声はかすれ、目で見える風景は、ぼやけて、はっきりとした輪郭を捉えない。
妖気を感じ取ることも、泉に妖怪の血を蝕まれて、できない。
何も感じない。声が、音が、聞こえるだけ。
「約束まであと三日だ。まあ多少きついがギリギリ……なんとか」
恭子と思って、言葉を続ける。
その様子をトラツグミは見つめていた。
「……心配すんな。死なねぇ」
力なく笑う。人の限界はすでに超えている。ただ気力でそこにいるだけだ。
トラツグミは、妖怪の姿のまま泉へ足を踏み入れる。
足が浸かったとき、電撃の様なものが全身を突き刺した。
泉の水が、トラツグミの妖気に反応し、蝕んでいく。
「バカ……入るな……。余計なこと、するなよ……」
どんどん、トラツグミは歩み寄って、冬矢の頭に触れた。
口角が妖しくつり上がる。
「それでもお前は妖怪か?」
「……?」
頭へ、直接妖気を送り込んだ。また、悲鳴が上がる。
鋭い痛み、禍々しく、大きすぎる妖気。
泉は鋭く、鋭く冬矢を傷つけた。
トラツグミは妖力を送り続けた。強すぎる、器を超えた膨大な妖気
冬矢は膝から崩れ落ち、泉に沈んだ。
トラツグミは人の姿に戻る。泉は反応を止める。
泉に倒れる冬矢を見下ろす。
「……妖怪、か」
少しだけ呟き、泉から上がる。
トラツグミは立ち去った。