雪女の背に続け



約束の時が来た。
女王と恭子が山を登る。

退魔の泉へと向かっていった。



「冬矢が死ねばどうする気だ」

「彼の亡骸を使って彼女を呼びます」

登山の途中の会話。
女王の言葉に、恭子は少し俯く。

「この山の妖怪はみな、あいつに執着する」

「当然。彼女はこの山の宝でしたから」

無邪気な笑顔を女王は浮かべる。
その笑顔が逆に恐ろしく感じられて、恭子は眉をよせた。


「冬矢は大切な存在。彼女を呼び戻すための大切な、器です」

「器……」

所詮、友好的と言ってもこの程度だ。
こいつらにとって冬矢はただの入れ物。

かつてこの山に君臨した雪女の息子でしかない。
冬矢の影にいる彼女しか、ここの連中は求めていない。
彼女を呼び寄せるための道具以外に、価値を見出していない。


「お前はどっちの結果を望んでいる?」

「……」

「冬矢の傘下に入ることと、冬矢の死。どちらを望んでいる」

鋭く、恭子の言葉がその場の空気に落とされる。
女王は表情を変えなかった。


「冬矢の傘下に入って得るものはなく、冬矢の死によって得るものは多い。それが答え」

「……嫌な女だ」

「貴方に言われたくはないですけど」


そして二人は泉へと到着した。
泉の水は妖気に反応し、鈍く光りだす。


そして、
その泉に冬矢の姿はない。


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