雪女の背に続け
翌日、冬矢は恭子に呼び出された。
そこで知らされた。天狗岳の天狗が争いを仕掛けようとしている事。
「マジか……」
「どうする? 正面切って戦うか?」
「バカ言え。天狗岳つったらどんなとこか知ってんだろ? 大妖怪の大天狗の根城。町妖怪どもじゃ歯が立たねぇよ。……戦いとなっちゃあっちの方が上手だ」
そうなのだ。天狗と言えば、強大な妖力を持つ妖怪。
そんな天狗がごろごろいる天狗岳。そう簡単に戦って落とせるわけがない。
山妖怪をすべて傘下にしても叶うかどうか分からない。
「……大天狗に話つけるか」
「……私も同行しよう。元々、私がまいた種だ」
「いや、恭子は狐の方の交渉を洋子と言ってくれよ。古い付き合いなんだろ?」
大天狗との交渉を前倒しにすることにした。
武力で勝てないのであれば、他の方向から他の方法で争いを止めるしかない。
恭子は同行を申し出るが、それを冬矢は止め、狐火山の方の交渉を頼んだ。
「しかし、大天狗の方の話し合いに、先代の私がいたほうが……」
「なんとかするから心配するなって」
そういって笑う冬矢。
恭子は口をつぐむ。いつもこの笑顔に弱いのだ。
父・白郎と唯一似ているその笑顔。
「死ぬなよ」
「死ぬかよ。町妖怪全部の命しょってんだから」
そう言いきる冬矢。
恭子は冬矢の判断にすべてをゆだねた。
元々自分は引退しているのだ。
今更、二代目の冬矢に口を出す事もない。
そして、弁解する資格もないのだ。
冬矢が大天狗から、あの事を知らされたとき、自分は認めるしかないのだ。
自分が犯した罪を。