雪女の背に続け
「あいつはそれを?」
「知らない。大天狗は山妖怪の帝王だ。町妖怪から恐れられ、憎まれている存在が父だと私からは言えなかった」
何よりも、恭子は恐れていたのかもしれない。
自分を慕う烏丸のことを、失いたくなかったのだろう。
「私は、卑怯だな」
「…………かもしれないな」
そう言って、薄く冬矢は笑った。
ついに知った大天狗と恭子の間の確執。
ならば、傷を治すのは簡単だ。
大天狗もまた自身の息子を奪われ狂ったのだとしたら、息子に会わせればいい。
誤解も、憎しみも、すべての罪を一からやり直そう。
「安心しろ。あいつは、お前のことを馬鹿ほど慕っている。お前のもとからいなくなりはしない」
「そう……か……。そう……だな」
そう言って少し恭子は笑った。
少し吹っ切れた気がする。
「今度、烏丸を会わせる。何もかもを終わらせよう」
「ああ」
それから、店に戻ってきた烏丸に真実を告げた。
少し烏丸は驚き、そして納得した。
「僕は、一人じゃなかったのか……」
「すまない。私は、お前から父親を奪った」
「謝らないでくれ、恭子さん。僕は、あなたに会えてよかったんだ」
烏丸は笑う。
冬矢の言ったとおりだった。
馬鹿みたいに、烏丸は恭子を慕っている。
恭子を拒絶することも憎むこともなかった。
そして、また大天狗に会うことにした。