雪女の背に続け
白魔山。
冬になれば真っ白く雪化粧をする美しき山。
その山には雪の妖怪たちが住んでいた。勿論雪女も。
雪女の中で一際大きな力を持つ物がその山の女王として君臨している。
その女王の耳に冬矢の二代目襲名の報が飛び込んできた。
「そう、あの子が……とうとう百鬼を継いだのね」
穏やかに雪女の女王がほほ笑む。
彼女の笑みは儚くも美しく、心の底から冬矢の襲名を祝った。
白魔山は数々の山妖怪、海妖怪たちの中で唯一、町妖怪を虐げない集落。
町妖怪は確かに弱い。確かに山の秩序を守れずに町へと追放された者もいる。
醜い妖怪。
弱い妖怪。
忌むべき者たち。だが、もうそのイメージは白魔山の妖怪たちの中にはない。
白魔山の彼女たちの中で町妖怪たちは同じ妖怪。
忌むべきものではない。
醜くもない。
むしろ、
とても強く、
とても美しい妖怪。
「冬矢……」
胸に手を当ててぽつりとつぶやいた。
冬矢をいつくしむその感情は母のように温かな感情。
「貴方ならきっと……乗り越えられる。それでも……気をつけて」
雪女の胸にも一抹の不安がある。
目線は遠くに見える『天狗岳』。彼は何を思うだろう。
何も起きなければいい。
冬矢の百鬼夜行に何も起きなければいいと何度も何度も祈りつづけた。
ずっと、
ずっと……