門限9時の領収書

綺麗な空には元気な太陽、四角い部屋には可愛い彼女。

銀紙が残るお皿、フォーク。汗をかいたコップに半分残るジュース。



「おいしかったーありがとー」

甘ったるくなく、レモンの酸味が効いているからか口当たりが軽やかで……凄く洋平好みの味だった。


自分で買って来てた癖にありがとうと言う結衣にすかさず突っ込むと、

「だって、あはは」と、恥ずかしそうに俯く。


このように狙っていない発言をたまにするので、笑いの次元が低い洋平はすぐにツボに嵌まる。

腹筋が痛くて、なかなか波が収まらないのは彼氏のひいき目だからだろうが、

彼らをバカップルだと引いてはいけない。

彼らの淡い恋愛ごっこは、『和むわね』と我が子を見守るモチベーションで願いたい。


桜の花びらのような唇――すっかりオレンジ色のグロスが落ちており、逆に魅力的だった。

本来ならば、それは洋平の仕事だったはずなのに……


部屋に呼び寄せたのだから、男の力があるのだから、――簡単だと分かっているが、

……そこはもう良かった。
笑えるなら幸せだと思った。


なぜなら、笑顔がある関係は、きっと抱き合う関係より尊い気がしたからだ。

さすがに四回目になると、しつこすぎて彼の好感度ががた落ちだろうから、お気に入りらしい語録はしばらく自重しよう。


一緒に居て、話して、笑って――何が不満だという。

儚い望みは恐らく自分だけの独りよがりな我が儘になる。

彼氏だからこそ、好きだからこそ、
我慢強くあるべきことは、格好付けしぃの洋平によるモットーである。


照れ臭いのか、真っ赤な顔で唇を突き出す仕草一つ可愛くて、

これは夢見がち感性とは別だと主張したい。

他の女子と違うのは、「わざと小ボケを噛ましたんですー」と、ウケ狙い発言をするところだ。

ブリブリせずにケラケラする、そんな擬音が似合う人。


だから洋平が用意周到に結衣を押し倒したところで、愛の意味がない。


(ちなみに洋平がしつこく口にしている愛とは、
ルーズな奴が誠実さを売りにお一人様一回に限り君を愛していると囁く素敵な方ではなく、

慎重派な保護者も絶賛する真実の方なので、くれぐれもお間違えなく)

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