門限9時の領収書

ジェルネイルの表面みたいに潤みのある輝き、柔らかそうな光――

女の子は宝石とか夜景とか星空とかスワロフスキーとかキラキラしたものが好きだとされるが、

普通に男の子だって好きだ。


トイレから戻った結衣はグロスを塗り直したらしく、唇をぴかぴかさせていた。

それは身嗜みの一部で、なんら意味がないことくらい洋平だって承知している。

深読みする男は彼女居ない歴年齢の奴だということくらいも。


だから――


……だけど。



何のお告げか「もうすぐ四時かー」と、悪魔は呟く。


つまり家族の帰宅まで二時間以上はある。


  ……。

右側にビデオの文字を残した黒い画面のまま静止したテレビ、

リモコンの再生ボタンは押したくない。


丸い目がよく見えるように気持ち近付いた。


いつも楽しそうな笑い声を発する唇の煌めきを拭うくらいは、両思いなのだから許されるはずだし、

体目当てではなく律儀で真面目で紳士で健気な愛し方をしたがる自分を皆応援してくれるはずだし――

そもそも、好き同士だし。



「……。」


沈黙が教えてくれる。
自分たちは恋人なのだと。


こんなにじっくりと瞳を見つめるのは初めてで、

二重の線が右目の方がくっきりしていることや、マスカラを塗っていない下まつ毛が異様に長いこと、

黒目の奥が意外と深いことや、白目が眩しいことなどが発覚した。

ホッペの赤さを前に、また洋平は結衣を好きになる。


太陽がある時間帯の方が色気を感じるのは何故。

閉め損ねたドアから熱を帯びた風を感じるのは何故。


目が離せないのは何故――……


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