門限9時の領収書
視線を交わしたまま十四秒数える頃には、結衣が首まで真っ赤にしていて、
潤んでいる瞳の意味は?
高校二年生、いくら自分が初彼氏だろうが、
彼女だってピュアではないのだから、それなりに期待したって構わないはずだ。
つまり、キスをするムードは万全だと。
もうすぐまつ毛が伏せられるタイミングなのだと。
甘い時間が始まるのだと。
だって、付き合って三ヶ月、彼氏彼女、恋人の部屋。
普通のこと。帰宅したら手を洗うようなもの。
「、なんか、あは、やだ、あはは、至近距離ムリ、恥ずかし、ふ、照れるってば。はにかみじゃん」
少し張り上げた声で動揺しまくり俯く結衣。
吸い込まれるような瞳は前髪に隠されてしまったから、
洋平は気付かれないよう、奥歯を強く噛み締めた。
……何もこれが初めてではない。
こんなやりとりを続けて約一ヶ月。
いまだに彼女は彼氏の熱視線に慣れてくれやしない。
「……。」
――――だから、だ。
だから洋平は何も面白くなくても笑うしかない。
両手でホッペを包み、小刻みに首を左右に振るう結衣は可愛い、……可愛いけれど罰ゲーム過ぎる。
「あはは、も、恥ずかしって、ウケる、はは。見つめるとか、やだーカップルって感じ、あはは、笑える」
言葉の通りだ。
見つめられて恥ずかしかった。
それは自分が初めての彼氏だから。至近距離に免疫がないから。恥ずかしいから。
そう、恥ずかしいだけで、彼氏にキスをされようとしていた発想はなく、
本当に恥ずかしかっただけなのだ。
――恋人の頭の中をちっとも分かっていない。
彼氏は睨めっこがしたくて見つめたんじゃない。
……あまりに一方通行過ぎて好きな分だけ時々泣きたくなる。