門限9時の領収書
今になって見ると、モテを意識している感じが恥ずかしい。
それも逆に言えば、笑いのネタになるので良い思い出と呼べるだろう。
どうせ今の容姿も三年後にはイジりがいがあるのだ。
月日が流れるに伴い価値観が変化することは、地味に面白いと洋平は思っている。
けれど一つだけ変わらないことがある。
ありきたりだけれど、田上結衣を好きだという真剣な気持ち――……この恋心は永遠だ。
……。
…………。
ああ、だめだ。
雅はずっと親友だし好きだし弟は可愛がるし好きだし、両親は感謝するし好きだし。
地元の友人だって大切だし好きだし、アルバイト先のオバチャンや女子大生だって歳が違えど仲間だし好きだし……
ほら、こんな自分は決め台詞も様になりやしないではないか。
“彼女がすべて”
綺麗な言葉だと思うのだが、そうある為に洋平はたくさんの人とかかわり合って生きていきたい。
そう、口説き文句も噛んでしまうどころか訂正に入るのが自分というまどろっこしい男。
「なかなか痛い奴。かっこわる、ださいのが逆に素敵じゃん?」
「あはは、うわー、なんか、面白いー。笑える。
えー、でも、ふ、なんか、昔からカッコイイねー……こすい。クラスで一番カッコイイ、……すごい、なんか、幼い、なんか違う」
まじまじと写真を眺める結衣が、他意なく絶賛するので照れ臭い。
平面の自分の方が立体の自分より見つめられていて、なんだか中三の自分が羨ましい。
今ここにいる自分を見てほしい、だなんて――
付き合うとどうして我が儘になって厚かましくなるのだろうか。
……世界で一番結衣に好かれたい。
彼女には彼女の生活があり、小中高の友人やアルバイト先の知り合い、家族や親戚だっているのに、
てっぺんになりたくて堪らないなんて、愚かほかならない。
選んでほしい、そんな一途さは重たいのだろうか。