門限9時の領収書



『かのじょかのじょ、かのじょー!』


やかましい音を立てて現れたのは、


「、う、わ?、……良?!」

バタバタとローテーブルの周りを走り回る弟。


  え、

 なん……、え?

  、は? りょ……う、?


突然次男登場の意味が分からない。

胡座をかいていた洋平の左膝に乗り、良平はコアラのように兄の胸元に顔を擦り寄せる。

そして一ミリ程度に人見知り要素を見せ、モジモジしながらも好奇心には勝てないらしく、

チラチラと彼女である見慣れないオンナノコを眺めていた。


……良いところで邪魔が入るという使いまわされたお決まりパターンを前に、全く状況が掴めない。


「え、うわっ、え、弟? えー、あは、うわー……! かわい、なんか、え、……わー、はは、うそー、嘘、おとうとー?」


何故か真っ赤になった結衣が小さな少年を珍しそうに見つめ、

好意的なリアクションにどうやら気を良くした弟は、

『可愛い可愛い可愛ーい』と、いつもの調子で三回はしゃぎ始めた。

彼を真似るなら、“なんで”と“邪魔”と“なんで”を、それぞれ三回叫びたい洋平である。


色気ゼロなお子様乱入によって、

先程までこの部屋に滞っていた沈黙がなかったことになってしまっていたた。


間接照明が作り上げるオシャレなバーを、学生の活気が命のファミリーレストランに改装したように、

同じ場所だというのに、すっかり世界観が変わってしまっていた。


そう、年齢制限アリな大人らしい雰囲気ではなく、我が子によみきかせしたい絵本のように。

それはそれは洋平ビジョンだと、とんだ悪質リフォームによる被害と同様なんだとか。

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