門限9時の領収書

分かりやすいくらいに落胆する彼氏。

一方、彼女はすっかりテンションが上がったらしく、

以前デートで観光PRのご当地マスコットからティッシュを貰った時ばりにはしゃいでいた。


「わー……良平くんヤダ可愛いーうわ、そっくり、なんで、凄い、えー……うわあーウケる、あはは、なんか、……ふ、初めまして?」

力強く兄にしがみつく弟は、それでも緊張しているらしく、

小さな心臓から高揚している鼓動が伝わった。


子供はどうして体温が高いのだろうか……

もしかすると大人の冷えきった淋しい心を埋めてあげるべくして、

温かな血を巡らせているのだろうか。

まだ子供の洋平には、よく分からなかった。


もちろん、彼の定義はとんちんかんなので、本人以外の皆にも訳が分からない話なのだが、

そこは雰囲気でスルーしてあげる方が賢いと推測される。


『八歳だよオレ。可愛いーお兄ちゃんのカノジョー可愛い可愛い可愛ーい』

すっかりご機嫌のようで、頭蓋骨に響く叫び声を上げる為、

うるさいと注意するも、初めての“兄の彼女”という存在にもう興奮しているのだろう。

少し強めに叱っても無意味でしかなく、可愛いを三回奏でるばかりだ。


「たがみゆー……んと、名前はね?、えっと、ユイだよ。お兄ちゃんと同じ十六歳だよ、あはは」

柔らかく笑った彼女は花のように綺麗で――

やっぱり末っ子より姉気質に思えた。

目線を合わせて覗き込む感じとか、語尾をゆっくり伸ばして合わせる感じとか……子供の扱いが上手いというか。


絶賛ベタ惚れ中の洋平らしいチープな価値観では、

結衣の好感度が軒並み急上昇したのはわざわざ言及する必要もない。

しかし、ひいき目を抜きにしても、彼女は子供に好かれるタイプだと思わずにはいられないのだ。


『結衣ちゃん!』

なぜなら、既に弟を魅了しているから――

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