門限9時の領収書

――なんて、まったりアットホームに浸る場合ではない。


  てか、なんで?

 まだ四時半……

 、早くないか?

部屋の時計は故障したのだろうか、いいや、電池は先月入れ換えたのだ。

正確に時を刻んでいるはずだ。

なぜなら弟の腕時計(こっちを凝視している犬みたいな変なキャラクター)も、同じ時刻を示している故。


だんだんと控えめになる太陽、後数時間経てば消えて行くのみ。

夜の空は誰のもの?


“結衣ちゃん”――何を思ったのか、開口するなり人型コアラが大好きな女の子に抱き着いた。


  ……?

幼児向け番組の着ぐるみに出会った四歳児のように、力いっぱいしがみつくので、

ふんわりとした服から体の線が露わになってしまう。


 ……は、?

許してほしい、洋平は仮にも健全な少年、十六歳。


  ……ほっそ、折れそ

思ったよりも胴が――というか横幅が薄っぺらい。

折れてしまいそうだ。ちょっと肩をどついたら壊してしまいそう。


甘えた末っ子なだけあって、良平が結衣の背中に腕を回し胸元に顔を擦り寄せる。

年齢が一桁だから許されるだけで、数十年後なら立派な罪に問われるであろう。


 ……、りょうへい

自慢な彼女の私服はいつだってバスト回りにシャーリングがしてあったり、リボンがくっついていたり、

切替でたっぷりしてあったり、――要するに何かしらカバーされた(膨らませた)デザインが施されてあって、

今日だって鎖骨の下からは、シフォンが三重にふわっとしてあって。


だから洋平は――申し訳ないけれど、ペッタンコなんだと思っていた。

けれど。


  、なんでお前が

いたいけな弟にムカつくなんて兄としてダメかもしれないが、

なんの躊躇いなしに結衣に密着するなんて狡いと思った。

現に彼が母親にじゃれていたのも保育園までだったはずで……

大人の余裕がなくて、洋平には良平の行動が計算にしか思えなかったのは秘密。

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