門限9時の領収書
良平によるベタツキがあったこと。
そう、夢のようなデートプランは弟によって台なしにされてしまった。
彼はお見送りにさえついてきて、左に彼女、真ん中に自分、右に兄、
仲良し三人で手を繋ぎ歩くことを要求したのだから堪ったもんじゃない。
……本当はラストチャンスと称し、帰り道で口づけをしたかったのに。
そして帰宅したらしたで悲劇。
「母さん? 片付けた?」
部屋に置きっぱなしにしていたはずのお菓子やコップ、お皿がなくなっていた。
確か母親はこう言った。
『だってあんた間接キスしそうだから』と。
――別にそんなことをするつもりはないのに、そう思われていたことが情けないし、
なんだか何もかも男子高生ビジョンでは最悪な結末だったのだ。
……。
…………。
そんな幸が薄い洋平は、ホワイトデーから結衣と付き合うようになった。
放課後デートをしたり、笑えるメールをしたり、内容がない電話をしたり、相も変わらず小学生級お付き合いは続く。
それは世間一般のカップルと比べて、明らかに遅い……分かっている。
部屋に連れ込んで何もならないなんて、十六歳を代表してありえないと。
……三ヶ月続いた元カノとの歴史よりも、今の彼女との方が展開が遅い。
年齢や経験値を考えると、むしろ早まるはずだろうに、どういうことか手を出せないから謎。
馬鹿のような悩みが尽きない洋平だ。
足踏みをしているばかりと焦って、結衣を急かしたくなる。
だってやっぱり……土曜日は少しくらい距離を縮めたかった。
けれど――
「おめでたいくらいなんもねーよ、可哀相な洋平君ですから。……でも。」
近藤洋平、十六歳。高校二年生は奇跡的に気付いてしまった。
今、雅に向かって口にすることは事実で、嘘偽りのない本当の気持ち。
「なんか、さ。このまんまなんもなく。今んまま居るのも良いなーとか。……楽しいし? うん、楽しんだよ」
月曜日の洋平は土曜日の洋平とは違う感覚のことの説明を始めることにした。
誰ひとりとして、依頼されてもいないというのに。