門限9時の領収書

ここは空想の世界ではなく現実なのだから、

出会って少しで相手の良いも悪いも全部を知るだなんて不可能に近いし、もはや神業だ。

だから結局、洋平は結衣のすべてを知らないし、もしかしたら何も知らないのかもしれない。


それでも半可通で饒舌にお喋りができる自分は、

知ったかぶってでもいいから、彼女を知っている唯一の人でありたいのだ。


運命とか奇跡とか純愛とかロマンチックな単語が、A組やB組やC組の女子高生はお好きなようだけれど、

洋平は少し乙女心の理解が足りないのかもしれなくて、

それらに感動しちゃえる素直な女の子が羨ましくて堪らない。


――なんて全国女子の皆さんに、彼は寂れた心の持ち主なので、

どうか洋平の思考に心外だと怒らず、大人の対応として流すようお願いしなければならない。

つまり、いちいち純粋な彼女たちのように無垢な目で物事を見られない自分は、ダメな奴だという証拠。


だから出会って即刻体を重ねたり、無責任に認知しない奴に、

感動できずにムムムと眉間に皺を寄せる洋平は、彼女たちからすれば頭が固くてややこしい男なのだろう。


そしてまた、彼女らが愛を謡う辺りにだんだん爆笑したくなる自分の性格の歪み具合が、たまに怖くなる。

どうして共感できないのか。
自分が汚いからじゃないか。


気軽に唱えるより、ここぞと言う時まで言わないでおきたいのは、

洋平の真剣味が足りないせいだ。

そもそも好きな食べ物は残しておくタイプだから。


その点、彼女の結衣と自分はひどく意見が一致しているように感じる。


だから――……

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