門限9時の領収書
二人きり、母親がお風呂でちょうど良かったと安堵しつつも、
やはり洋平も色々と多感なお年頃なので、父親の視線に射抜かれると居心地が悪かった。
「コンペ。作業したいんだけど?」
力強く告げ、かつ大人周りで評判の良い笑顔を続けてみせる。
そう、学生の強みは、“勉強”を切り札にできることだというスローガンを普及しても問題ないはずだ。
幸い服飾コースの彼はビーズだかビジューだかよく分からないものを弄ることだって立派な勉強と同等であるが故、
時間がないとばかりに時計をちらりと見てみせる。
けれど、違う勉強を大人は子供に諭したいらしい。
『彼女、三ヶ月か』というつぶやきは、百文字程度でネット上に零す無意味な部類だと思いたいところなのだけれど。
……。
「うん、ハッピーホワイトデーが記念日です」
洋平は軽く唇を引き締め、(よく自分は無表情と言われるが、単に人見知りなだけだ)、
あんまり似ていない父親の顔を見据えた。
相手に動じず虚勢を張ることも小さな技なんだとか。
どっちかと言わなくとも、母親の遺伝子が濃いらしいと実感する。
『付き合えば良いけど、ちゃんとしろよ』
吐き出された言葉はあまりに重たくて、勢いよく床に落下した。
言いたいことは分かっている。もう子供ではないのだから。
含みを察知できる自分が時々嫌になるし、そんな性格が面倒で煩わしく感じてしまう洋平だ。
「はい、お父様。言われなくとも。」
それでも分からないフリをしてとびきりの笑顔を残し、後はドアノブに手をかけたら――それで良い。
しかしティーンエイジャーとアラフォー。
人としての年輪に敵うはずがないのだ。