門限9時の領収書
流行りに乗っかって購入した巨大なテレビの電源を切っている時は、
画面が黒い空間で すっぽりくり抜かれており、吸い込まれたら闇の世界に繋がっていそうで不気味だ。
『ふざけずに。真面目に。小野沢さんちの、ほら、同い年の。分かってるのか?』
「……分かってますよー」
“小野沢さんち”というフレーズは洋平の地元ではタブーだ。
その理由はあまりに悲し過ぎるから、あまり皆は語りたがらない。
『洋、お前なー、男親は不安なんだよ、自分の子供がアホやらないかって』
少し目尻をつり上げた父親の考え方は洋平にそっくりだから、言わないでいる真意は分かる。
大人が心配していることは一つ。
自分の子供が人様の娘さんを――、収入がない未成年の息子が大事な娘さんを――、孕ませやしないかということ。
身も蓋も無い話だが、だいたい推理は当たっている。
……のぞまない妊娠ってやつ。
…………。
別に、
分からなくもない、けど……
「大丈夫大丈夫。洋平クンと結衣チャンってば、まだ手すら繋いでませんから」
右側に首を傾け、可愛らしく洋平は父親を上目遣いで見つめてみせた。
安心するであろう事実を言うが早く、年齢的にありえないといった顔をされては少々複雑である。
、……。
なんか、な。
「大丈夫だから。意外と、……ちゃんと、そこそこ考えてるし。はは、何も関係ないよ、でもまあ、……あれだ。あなたの子供だもん、気をつけます、だろ? 父上?」
身を削って披露したお喋り。
わざわざ事細かに説明しなければ信じてもらえないのは微妙だ。
なぜ親子なのに信用されなくなるのだろうか。
普通に切ないような、……年頃の息子を持つと仕方がないことなのだろうか。
そもそも十六年間も彼に育てられたのだから、もしも今、彼女と体的な関係を持っていようが、
洋平は洋平として父親の元で成長した結果、避妊を怠るはずはない。
なぜなら、とっても簡単に誠実な愛を立証できるから。
それなのに不信感を抱く親。
なんせ洋平には前があるのだから無理もない。