門限9時の領収書
――――――――
―――――


ブラウスに散った墨汁のような色をした空からは、ご近所トラブルを避けるかのごとく音を立てずに雨が降っていた。

話によると例年に比べ今年は梅雨らしくないようで、久しぶりの傘の登場だった。


アポイントなしで偶然会うとテンションが上がるのは何故。

例えば街中。
一人で買い物をしていたとして、

たまたま級友に遭遇した時や、コンビニでレジに並ぶとたまたま旧友のアルバイト先だった時、

約束ナシの再会は、気持ちのバロメータが大幅に上昇するはずだ。


だから例外なく、とある少年も大好きな少女にばったり出会いご機嫌。

つまり放課後の階段は、彼目線でたちまちパワースポットへと変貌してしまっている訳だ。

ただの薄汚れた踊り場なのだけれど。



「あんたは私の彼氏じゃん! 偶然、あはは」

「お前は彼女じゃん、何、俺ストーカー?」

すれ違い様に姿を確認しあったのは、可愛らしい高校生カップルの洋平と結衣。

お互い顔を見ただけで、八等分にカットしたオレンジを唇に貼った風に綺麗な表情を作れる不思議。


先日購入したと言っていたUVカットのストールみたいなものを制服に羽織っている姿は、

クーラーに弱いOLさんみたいだからか、あるいは紫外線を気にする乙女みたいだからか、

守ってあげたいと男心をくすぐられる。

(ちなみに、結衣は肌が炎症するタイプだから極力日焼けをしたくないらしい)



そんな洋平の自慢の彼女に、「今度家で遊ぼー?」と、次回のデートプランを提案された。

夏が近付いた最近は外で会うと汗をかくので、メイク持ちが気になるのだそう。

湿度が高く蒸し暑いせいか、シュガーボイスが包む肌には汗が浮かんだような気がした。

< 176 / 214 >

この作品をシェア

pagetop