門限9時の領収書
小学生の頃の図工の時間を思い出してみて。
お花を描くには、白を混ぜたり赤を加えたり水を足したり……パレットの上であれこれ悩む。
そうして古紙に試し塗りをすることを繰り返し、お気に入りの花びらを探す。
一つとして同じ色にはならなかったはずだ。
静かな雨が地面へと溶け込む。
紫陽花の色はどうして安定しないのだろうか。
中庭に咲く花はどれもぼんやりしていて、紫、ピンク、青、白、何色なのかと問われても曖昧な彩りとしか答えられない。
幻聴か確かめる為に洋平は自分の耳をひっぱってみたけれど、
「いつ暇?」という結衣の声に、やはり間違いではないようだった。
「……、――大丈夫、?」
随分と動揺しているが、大人らしく冷静を装ったまま彼は笑顔で対応する。
一方、「片付けるから大丈夫、緊張するけど」とお喋りをする結衣はいつも通りだった。
、……田上さんって
だから――密室・恋人・ファーストキスという予感や企みが彼女にはないらしい。
意識しているのは少年だけで、少女は相変わらず先日招待されたお返しだと口にする。
苺かき氷シロップを味見したような魅惑的な唇をして。
行きたいに決まっているじゃないか。
別にやましいことを目的とせず、単純に家にお邪魔してみたい。
けれど――
んー。親の居ぬ間って……
、微妙
洋平は洋平で、結衣を好きな洋平は洋平であるから、やっぱり洋平らしく言っていた。
なぜならカッコつけしぃだから。
「ばりばり行きたいけどさ、マンションだろ? 近所の人って意外とストーカーらしく見てるから、さ」
田舎で暮らしてきた彼はご近所ゴシップに敏感で、田上さん家の娘さんの評判を守りたかった。
従って、母親が居る時に遊びに行くと明言した。頼まれてもいないのに。