門限9時の領収書
色を使いたくないのか事務所のような印象を受けるリビングまで歩けば、
緊張している洋平の心は異常なビートを刻んでいた。
というのは結衣の母親を見つけてしまっていたからである。
『いらっしゃい、初めまして』
幾つになろうが女ですといったオーラを漂わす人を勝手に想像していたので、
お母さんといった単語がぴったりな姿に洋平は少し驚いた。
娘である彼女に何もいけないことをしていないのに、
どうして母親に対して妙な罪悪感が芽生えるのだろうか。
より良い彼氏を目指しているから、何も後ろめたいことはないというのに。
「あの、おじゃまします、近藤洋平です、あはは、初めまして」
アルバイト初日に練習したマニュアル通りのお辞儀を模範し、
洋平は第一印象が最悪にならぬよう心掛けた。
お互いが身構えるも探り合う面接をしている時の空気に似ている。
嬉しい胸騒ぎはお土産のケーキよりも糖度が高いような気がした。
『もー、結衣ったらこーんな格好良い……えぇー……お母さんびっくりなんだけ――「も、うっさいって」
「いえいえ、あはは、田上さん可愛いので、ほんと、はい。はは、よろしくお願いします」
じゃれあう親子の図が和む――洋平の強張っていたホッペは既に緩んでいた。
『えー、も、結ー衣、申し訳ないわー。近藤くん……ありがとうねーこんな馬鹿な』
控えめに観察されている感がこそぐったい。
こんな感覚が思春期のお付き合いらしくて心地良い。
――主婦ウケOKファッションだろうか。
今日の洋平はボタンの色が全部違うパステルカラーの可愛らしさがポイントの遊び心がある白いシャツを、紺色のTシャツの上に前開きで羽織り、
無難な細身デニム、自分的にはかなりシンプルめで、
当たり障りない好感度高めを意識したのだが、判定は合格ラインだろうか。
こういう風に外見ばかり気にしてしまうも、
洋平はなるべく中身も知ってもらおうと明朗な口調を頑張ってみていた。