門限9時の領収書

もしかすると洋平の“おかあさん”になるかもしれない人。

何十年後かに居るであろう自分の子供の“おばあちゃん”になるかもしれない人。

違う。初対面にも関わらず、ぜひ家族になっていただきたい大切な人。


不思議だった。
どんなに大人になりたがろうが、まだまだ中身は未熟……一生懸命努力しようがまだまだ鈍いガキの癖に、

やっぱり洋平は結衣と結婚したくて堪らない。


素敵な未来には今の彼女が奥さんとして存在しない方が異常だ。

甘えたな恋心――ずっと仲良くしていたい。


体に馴染んだエプロンを弄り、『優しそうな彼氏で良かった』と、安心したのか微笑む人に、

「もー、失礼! 優しいし面白いし頭いいし運動できるし笑えるしオシャレだしカッコイイしネタが通じるし――」

明るいし楽しいし……と、結衣がプロフィールとして語る洋平を指す説明文はあまりに照れ臭い為、

「田上さん!、これお土産」と、勢いよく紙袋を差し出した。

間接的に母親へのアプローチになる魔法の品。


こういう直接的な会話をしたことがなかったせいか、単純に褒められる感じが嬉しくて、

――どうせ自分の耳は真っ赤に染まっているであろうから、余計恥ずかしくなる。

きっと保護者には動揺がお見通しで格好悪いけれど、

逆に娘を想う誠実さが伝わるなら幸いだ。


ごゆっくりを合図に、彼女の部屋へと向かう。


扉との距離が縮まる分だけオーバーに心臓が暴れ出すから困ったモンだ。

落ち着きがなくなる。

まつ毛を持ち上げ、洋平は控えめに探索する――勝手にピンク色をイメージしていたせいで、

まずメインカラーが水色だったので驚いた上に、

デコレーションされたキラキラ系を想像していたからか、

かなりこざっぱりした家具が意外だった。


それでもさりげなくレースがあしらわれたり、シャンデリア風の小物などが飾られていたりすることから、

控えめな可憐さが結衣らしいと洋平は嬉しく思った。

こういう世界に迷い込めるなら幸せだ。

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