門限9時の領収書

DVDを見終わり呑気にお菓子を食べて、さて次はどうしようかと言う頃、――太陽は夕日になる前。


もうすぐ始まる夕焼けは好きだ。

右の赤から斜め右の紫、間ははしょり一気に左に移ると広がる藍色の絶妙なグラデーションが綺麗だから、

(自分が北半球に住んで南を向いていることを前提で話を進めるのが小意気)、

あの色をドレスにしたらきっと綺麗な衣装になるが、恐らくまだ似合わない。

一年後には着こなすと思う。
誰が? それは野暮。
早く完成させたいと思う。


『結衣ー近藤くん、お母さん出るからー』

ほんわかしたムードが漂う中、まだ耳に馴染まない声がかかった。

聞き間違いかと耳を澄ませば、『ジュース、おかわり冷蔵庫あるからー。お菓子足りないなら机にあるから。晩ご飯お姉ちゃんに頼んだからー』と、指示が続いた。


 え?、出かける?

思わず洋平はただでさえ大きな瞳を見開いて、大根役者ばりのリアクションを演じてみせる。

しかし、そんな名演技をスルーして、呑気に「いってらー」と、ドアに向かって叫ぶ娘に、

素人は慌てて、「おばちゃんどっか行くの」と、食い気味で尋ねてしまう。


お皿を重ねていた結衣は、マイペースにのんびりと口にした。

「同窓会の打ち合わせなんだってー」


――そう、彼氏の意図を分かっていない発言を。


「あ、そう、な……、へえ」


  ……。

ひょっとしなくとも、この子はお馬鹿さんなのだろうか。

あまり意思の疎通ができていなかったらしい。


 意味なくね?

 わざわざ二人きり避けたのに

  、あほ?

結局、事柄が事柄なだけに、結衣に限っては仕方ないかとは思うし、

逆に魅力が増したようにも感じる洋平だった。


「定番卒アル見よっか、あはは、照れる」

なんて、こちらの立場を全く分かっていない具合が愛しい。

男心を読めていないが、この際許そう。
計算抜きの行動は甘く、わざとこちらが嵌まってみたくなるから。


「うん、見る、採点してあげるから、はは」

邪念を追い出し、耳を引っ張ってみた。

こうやって自らチャンスを潰し、洋平に紳士を演じさせているのは、他の誰でもない結衣――

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