門限9時の領収書

小学生の頃から見慣れた舞台の幕を思わせる紅色を丁寧に開けば、

約一歳と少し若い彼女が居た。

つい唇がゆるんで――洋平は八重歯を覗かせてしまう。


 …………。

「変わって、……ない? わかい」

今より若干顔のパーツが下にあるせいで幼く感じるも、総合的に見ると今の結衣とあまり大差ない。

とにかく若い。
髪の毛が肩下で短いくらい。眉毛が若干細い気がするも、やっぱり可愛いまんまだった。


「えー、これスッピン?」

「うん、グロスだけ。唇おばけ」

「ふうん……ゼーットじゃん」


 ……。

まんま素顔の中学生時代の少女は、(あくまでも彼氏目線で)びっくりするくらい愛くるしい。

そっと指先で触れてみるも、当然ただの写真なので無意味であったけれど、

透明感が半端なくて、変な悦に入ってしまう。


「引かないでね、ブス彼女」と、卑下して笑う結衣に、

困ったように眉頭を持ち上げた洋平は、「やー、普通に可愛いーと彼氏は思うよ」と、軽くウケを狙ってみせた。


直球で感情を伝えるより、わざと煩わしく言いたい。

それを面倒臭いと否定するか、面白いと喜ぶか――結衣が笑顔になる方を選ぶだけ。

だから陽気に振る舞うことが癖になって、そんな趣味が幸せで生き甲斐だ。


「やだー媚び売らないで下さい」

「はは、なんか子供っぺぇ、かわい」

中高の女子生徒らは、ストレートヘアが定番らしく、巻き髪の印象が強かったせいか新鮮で、

つい必要以上に凝視してしまう。

なんだろう、スーパーのチラシに出れそうな万人受けする清潔感がある。

もちろん今もだけれど。


「真っ直ぐも良いじゃん、髪。てか田上さん普通に中学も可愛い、罪。クラスメートなら即効惚れたわ俺、はは」

本心しかない発言だが、なんせ洋平は洋平であるが故、ロマンチックな台詞は胡散臭い。

だから声色を変えてユニークにすることで、まるで冗談だというように偽った。


「褒め殺しとかおもんない奴ー」

こうやって彼氏を嘘臭いと爆笑してくれる結衣の人間性が好き。

ホッペを赤らめ照れる天然ガールよりも、社交辞令だと交わすガサツ女だから好きだ。

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