門限9時の領収書
一つ一つを知り、一つ一つ好きが増えると、洋平は単細胞なので嬉しくなるタイプ。
リーズナブルな幸福は賢い買い物だと胸を張って言える。
値段の割にオートクチュール。洋平だけのお姫様。
甘々な雰囲気に憧れているも、結局は粗雑な空気がしっくりくるせいか、
案の定、「はい質問。中学どんなだった?」と、砕けた音しか彼は作らない。
右手を上げて小首を傾げれば完璧。
つまらないユーモアを味わえる関係が有り難くて、この子の彼氏を職業にできて良かったと実感せずにはいられない。
休み時間や体育祭、文化祭のスナップ写真(と呼んで正しいのだろうか)は、
ランダムに撮影されているにも関わらず、結衣を意外とたくさん見つけることができるのは、
きっとカメラマンがシャッターを押したい存在だったに違いないだろう。
そして、どれも悪ノリしたと思われるポージングであることから、
比較的クラスでは中心に居る女子だったことが顕著だった。
「モテてそ、派手ん子と仲良しなんだな?」と、卒業アルバムを前に分かりきったことを洋平は質問したら、
それ系が流行っていたからだと言う。
確かに当時はベアトップやニーハイブーツ、メッシュヘアなど露出ギャルの黄金時代だったと思い出す。
トライアングルの辺の中心を鳴らした時の音に似た結衣の笑い声が、自分の前に立った耳をくすぐった。
中学時代は猿だとからかわれた記憶が彼氏にあって、色白だから雪女とイジられた思い出が彼女にあって――
やはりコンプレックスは好きな人の気を引く為に、わざと目立って主張しているとしか考えられない。
二人とも幼い頃の本人が欠点にしていた部分を、恋を知ると好きになる不思議。
普通にかわい。
プリクラくらいの大きさでこっちを見ている少女は、恋心を奪う魅力の持ち主。
なぜ恋人が居なかったのか謎だった。
高嶺の花過ぎたのかと思った。
……これこそ恋は盲目な彼女最強説。
引くことなかれ。彼氏は交際相手を過大評価するポップな生き物なのだ。