門限9時の領収書
隅に寄せられた食器たち一つ見ても、全く可愛いげがないシンプルなデザインのことから、
洋平が短時間で推理した結果、田上家はゴチャつくことを毛嫌いする性質があるのだと思われる。
こんな風に、彼氏という生き物は勝手に彼女のプロフィール欄を埋めていく厄介者――失礼、夢見る少年なのである。
「ほら、中学生ん時の面白エピソードは? はい、語れ」
卒業アルバムをめくりつつ、洋平は軽く微笑んでみせた。
もちろん結衣がときめく笑い方を計算して。
すると予想通りに髪の長い女の子は真っ赤な顔になり慌てて目を逸らすから、
その反応が可愛くて洋平は、ますます好きになるのだけれど。
そう、どうやら彼はちょいちょい彼女をからかう癖があるらしい。
罠を仕掛けるのは小悪魔ガールだけではなく、男子高生だって術策を練るモンである。
「無茶振り、あはは。えー私さ、あれだから、そゆ会話?、絶対プラスして語っちゃうからー見栄っ張りなんです」
今度は結衣がふわりと笑う――当然洋平が好きな甘さを秘めて。
……。
だから自分は彼女に惚れたのだ。
おっとりとしているも、少し女度高く打算ができるところに。
「誇張しちゃいますから、もはやフィクション! あはは」
「ああ、武勇伝的に?」
「そう、それ! “昔ちょっと迷惑かけちゃったよーガキだったんだよねー、反省してるよー”ならパーフェクト?」
「ふはは、百点!」
年頃の男女が密室に居ながら開催されたのは、非常にゆるいトーク。
誰しも同窓会で一度くらい耳にしたであろうエピソードを展開させていく。
年頃の男女が二人きりだというのに、掃除時間の雑談ノリで。
どうして二人は常に笑っているのか。
面白いから笑うのか、笑いたいから笑うのか、面白いと思いたいから笑うのか。
そんな小難しいことは知らない。
ただ、相手のときめくポイントが自分の笑顔だということは分かっている。