門限9時の領収書
「“髪の毛ダサいくらい明るく染めちゃってたしぃー化粧濃いしー、本当昔のアタシださいよねー”は? あはは」
「完璧! 否定してるようでアピールアピール、あはは 」
こんな感じで、思考が似た者同士の結衣と洋平は爆笑する。
昔のやんちゃ話は猛省しているプラスありえないと否定しているようで、
裏を返せば過去の栄光に縋る自己顕示欲だったりもするらしい。
――なんて、そんな頭で考えるセラピーもどきはほっといて、
とりあえずツボが合うから二人は愉快に盛り上がれる。
明るい太陽が動く空は爽やか、学生服が相応しい彼らの象徴。
元気な明日を約束してくれるお日様。
卒業アルバムを閉じると、空気が追い出される音がした。
プラス、頼りない笑い声と か細い声が。
「あはは、だから私……元カノ……嫌」
クーラーとは別の悪寒が背筋を走るから――あまりに突然なカミングアウトを、どう対処したらいいのか分からない。
その発想はなかったわ、だからだ。
「あはは、何、飛ぶ、ね?」と、洋平は洋平らしく返事をするも、
「なんか……中学。近藤くん好きだった人……、なんか、やだな」と、結衣にシリアスモードを作られた。
いつだって彼女は気軽に笑っているというのに、――楽しいだけの交際は無理なのかと洋平は現実を知った。
はずだった。
そう、田上結衣は田上結衣であるが故に、近藤洋平のユニークさを慕っている節があり、
「えへへ、嘘。冗談! 今ばりばりキモかった? あはは。ちょっと結衣ぴょん悲劇のヒロインごっこした」
――笑ってみせるのだ。
……。
ああ、どうして一秒毎に好きにさせるのだろうか。
こんな態度は恋心をくすぐろうと狙っているとしか思えない。
「大丈夫だよ、短命に別れたし。ワンクール未満?、はは。」
本当は結衣を抱きしめてお前が一番だと伝えるべき場面なのだろうけれど、
内容的に例えばキスでもできるムードに転じさせることも可能なシーンなのだろうけれど、
宥めてあげる真剣さは控え、洋平は適当にふざけておく。
なぜなら王子様はキャラではないし、ヒーローみたいな紳士な立ち振る舞いは恥ずかしいから。