門限9時の領収書
常に笑顔、常に冗談、なぜなら楽しいから。
たとえ偽りだとしても、相手を喜ばせたいと願うから。
彼氏が、彼女が、(浅はかながらに)人間関係を考える上で働くパワーが似ているせいで、
いかなる時も分かってしまっているから、ただただ空回りしていようが良いのだ。
結衣の様子が変なことを感づいている洋平、
洋平が無理をしていることを気付いている結衣、
二人がそれぞれ隠している。
その証拠に今、マドカ高校きっての愚図なカップルは、ぎこちなく本心を潜め笑っているのだ。
――そう、思考の基盤が被る同士だからこそ、少年少女は言葉にされない含みに気づいているのだ。
それさえ口にしないのだけれど。
聞こえは悪いが、二人ともカジュアルにナルシストだから。
奥ゆかしさが粋だと知ってしまっているから。
綺麗にまとめるなら、以心伝心できる関係が憧れだから――だ。
「ね! そんなことよりDVD、愛美に借りた。見よ、スカイフィッシュ。見る?」
洋平が大好きな上目遣いの笑顔を見せて、結衣は次の提案をする。
まつ毛が長いので、瞬きをする度に風の音が聞こえそうだ。
……。
アツさがない付き合いが理想だった。
『アタシと元カノどっちが好き?』なんて、一途な乙女らしい振る舞いをしない感じが好きで。
綺麗な涙を見せない彼女が好きで。
洋平だって問いたいのだ。雅を一瞬でも好きになったことはないのかと。
付き合う前、実は疑った時期があった。
二人が仲良く話す姿に。
手作りケーキを渡す姿に。
…………。
しかし、そういう恋人トラブルめいたところを削除する付き合い方が夢で。
なのに今、洋平は結衣を抱きしめたくて堪らない。
結婚したいくらい好きだとか、愛しているとか、清潔にロマンチックな想いを伝えたくて堪らない。
例えば愛していると叫んだり、好きだと抱きしめたり、ドラマチックに恋愛をしてみたくなる。
甘い甘い言葉を彼女にプレゼントしてみたくなる。