門限9時の領収書


――なんて、冗談。


恋人、彼女、結婚、キス、その他いろいろ忘れてしまう程度の項目について、

誰にも一度だって要望されていないのに、

浅い知識で薄っぺらな恋愛論を勝手に説いてきた洋平なのだが、

中身空っぽで重さがないただの無駄話であって、ただの高校二年生による独り言なのである。


学校やアルバイト先、家の近所や街中といった彼が日頃から足を運ぶ生活圏のみでの経験――非常に狭い世界を背景に、

『保護者ウケばっちり好感度高めな彼氏を目指す自分は、口が達者な割に内心ヘタレの偽善者もどき。

付き合って三ヶ月、自慢の恋人。楽しい毎日。クラスで一番人生充実してるはず。……でも――?』――といった設定をして、

洋平があれこれ空想して遊んでいただけ。


詮ずるところ、大好きな結衣との恋愛における(本来は流すであろう)小規模なヒストリーを一々オーバーに取り上げ、

なんだかんだ枝葉付けして、一人頭の中で騒いでいただけ。


理由? 聞いても誰の参考にもならないが、洋平のスタンスでは楽しいから。面白いから。笑えるから。


端的に言えば、“結衣を好き”、それだけ。

たったそれだけを正当化させたいから、いろいろ並べてみただけ。

そうやって自分の恋愛に対して不要な事由を考えることで、

結衣を好きな気持ちに奥行きを出したかっただけ。

何かしら無駄を削減したがる世の中なので、あえて必要ないことを探究してみただけ。


好きでやまない結衣について悲壮感たっぷりに悩むフリをすることは、

暇人の暇潰しにはぴったりな作業だっただけ。



――? ……なんと、ナルシストは虚言癖らしい。今のはデタラメだ。

種明かしをしよう、洋平がグダグダあれこれ悩む痛さを趣味にしていたのは、

何か考えていないと結衣を押し倒してしまいそうだったからだ。

とにかく何かに悩んでいる状況でないと、結衣を無理に襲いそうだったからだ。

結論は嘘と一緒で、結衣を好きな気持ちの真剣さを証明したかったせい。
まあまあピュアなせい。



二つの影はパーソナルスペースを保ったまま歩みを進める。

洋平の左には、少し見下ろす形になる結衣。


暇になった手をポッケに突っ込んだ。
< 209 / 214 >

この作品をシェア

pagetop