門限9時の領収書
――さて、洋平と結衣。
ホワイトデーの告白以来、二人に愛の言葉はなかったりする。
口にしなくても態度で伝わるから。彼女のホッペを見ればすぐに分かるから。
とりあえず大丈夫だし満足しているし充実している。
……愛を確かめたいのなら、簡単な方法を洋平は知っているのだけれど。
まだ実践していない。
それは十分に伝わっているから。わざわざ確認する必要がないから。
……。
真上から彼女を見下ろせば、どんな景色なのだろうか。
手首を掴めば、どのくらいの細さなのだろうか。
首の後ろに鼻を寄せれば、どんな香りがするのだろうか。
(気色悪い奴だと嫌わずに、わんぱくだと好意的な角度で彼を見守ってやろう)
……あーあ。
我慢大会 絶対優秀だろ俺……
ガサツな同級生が結衣は貧乳だと言っていたが、好きな女なら別に洋平は何も思わない。
むしろ魅力の一つになるというか、今後の楽しみになるのでは――と、想像する自分が本当に情けないし申し訳ない。
どうかしている。
真昼間の象徴・太陽がある、キスさえしていない、それがどうして先の展開を望むのか。
とにかく無邪気にスカートめくりをしている幼稚園児が羨ましいばかりだ。
「……――のオチ、笑えたよねー」
笑顔の結衣は彼氏の返事を待っているらしく、柔らかい目を向けている。
愛らしい瞳。
その黒目が揺れる時、洋平は彼女を幸せにできるのだろうか。
泣かせたり怖がらせたりしてしまったりしないだろうか。
――まだまだ先の段階を予測して悩んでいる。
全くなんて暇人なのだろうか。
無駄に妄想する時間があるなら、資格の勉強に費やせばいいのに。
ゴミの一つでも拾えばいいのに。
それでも、こういう甘酸っぱい悩み事は青春の証なので、
勉強よりも実は大事だったりするのだけれど。
かといって、学生らしく教科書片手に机に向かえるのは今の内なので、
大人たちはあの時もっと勉強すれば良かったと後悔したりする。
要するにバランスだ。
けれどもどっちつかずで強みがないと、これまた困るのだそうで。
ややこしい、それが人間界。
尤もらしく適当にごまかしておこう。