門限9時の領収書
しかし何にウケて何に笑えたのか、そもそも何の話をしていたのかさっぱり思い出せない。
結衣のお喋りを聞き逃していた原因は、結衣の妄想していたことで当たっているはずだ。
「聞いてたー? もー、独り言させないでくれませんかー、あはは」
ガチでキレずに、洋平の駄目な部分を笑ってくれるところが好きだ。
(標準的な女友達は、笑うポイントがなくつまらない話――(愚痴や不満、天然なアタシ演出エピソードや業務連絡みたいに起こったことの羅列など)を、
うだうだ語るから、洋平は聞くのが退屈でつい相槌を忘れてしまうのだが、
その際、『ちゃんと聞いて』と、機嫌が悪くなるから困ったものである。結衣とは大違いだ)
喉の内側にかつおぶしが張り付いてしまったようで、
噎せる少年は、「えーっと、トリップしてました?」と、肩を竦め笑ってみせた。
「最近ぼけっとしてるしー、怠惰な彼氏とかヤだー」
鼻に皺を寄せて変な顔をする結衣は、大人しそうな見た目とは違いかなり砕けたキャラで好ましく思う。
なんだろう、例えば誰かが大切なものを捨ててしまった時に、ためらいなくごみ箱を漁れる感じ。
文化祭の劇でオーバーリアクションの奴を皆とイジって笑ったりせずに、また照れたり嫌がったりせずやりきる感じ。
キメ顔以外をさらけ出せる――オンナオンナしていない気さくな感じが好きだ。
「器のデカイ彼女様」と言えば、「寛大だから許しましょう」と、笑顔を見せる感じが最高。
なんだろう、他者からすれば笑うポイントが謎なやりとりが大好きだ。
お弁当の底がだんだんと見えてくると、愛を食べている感じがする。
胃とは違い、胸の中が満たされていく――
なんとまあ身贔屓全開ラブリー思考なのだろうか。
制服を脱いだ人が忘れてしまいがちな痛さ――大切な淡さを三流の主人公と一瞬に思い出してみていただきたい。
懐かしくてもどかしくて――あの頃らしい恋愛を。