門限9時の領収書

マシュマロのような結衣の白い肌に黒い点があることに洋平は気付いた。

「ホッペ、ついてる。右。ソース」

「あー? うそー、ありがと」

キラキラデコレーションした鏡を出し、(六・七年前からだったろうか……なぜ女子はスワロフスキーが好きなのだろう)、

レースの付いたティッシュカバーから取り出したそれで拭く彼女。

(だからなぜ女子は小物に限り八割はフリルが好きなのだろうか)


その際も、「これはお茶目なアタシ演出なんですー」と、冗談を披露してくれるから好きだ。

なんだろう、笑わせてくれようとした会話のリズムが好きだ。


中学の時に判明したのだけれど、洋平は起承転結のオチに笑いがある話し方をする癖があるらしく――

愚痴も報告も最後は相手に笑ってほしくて無意識にツボを狙って喋っている。

ほら、そんなところも自分と結衣は似ているから嬉しい。


――白い肌から黒が消えた。


 ……あーあ

さっと拭いてやれない自分が歯痒い。

ここは高校生、彼氏が小指で拭ってくれて、汚れた指を舐める姿に彼女がキュンとなる場面なのだろう。

いいや、もしかすると直接舌で舐めとり、そのまま唇へと運ばせ、

一気に目眩く大人なムードへと なだれ込む年齢制限ものの展開なのかもしれない。

がらりと世界観が変わり、待ち望んだ夢を叶える入口なのかもしれない。


……付き合っている。

ここが学校だろうが昼間だろうが、結衣が洋平を好きならば彼女をどうしようが法に触れない範囲内ならば、なんら問題はない。

それが ただ口頭でしか注意できない自分――


もぐもぐと子供のようにお弁当囲んでお喋りをして笑って……

賑やか愉快、楽しく明るいガヤガヤわくわくランチタイム。




「なー、今度うち来る?」


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