門限9時の領収書
前とは元カノのことを言っている。
元カノとは昔交際していた女のこと。
あれは一年と少し前。
中学三年生の後半、初めて彼女ができた洋平は思春期真っ只中、
あれこれ詮索されたくないので、両親に恋人の存在を内緒にしていた。
……しかし、田舎の情報網は半端ない。
付き合い記念日やら喧嘩をした内容、ファーストキスやら……それより厄介なことさえ、
ご近所では赤裸々に語られていたそうで。
知られるのは恥ずかしいが、白々しいくらいに気付かないフリをされる方が居心地が悪いのだと知った。
恐らく、そのせいで母親の永遠の恋人は弟になったのでは……と、洋平は勝手に推理している。
(弟や彼の未来の恋人に謝りたい。母親は次男坊大好き過ぎて嫌な姑になるだろうに)
そして、恋人を家に誘うのなら、ご町内の目は透視級であることを知るべきだということを学んだ。
隣の奥さんだけではなく、地域一体が母親に息子の行動を逐一報告する、それはうちの田舎ならではのルール。
(コミュニティーが薄れた平成で、地域密着型パトロールの役目を果たしているなんて素晴らしいではないか)
例えば、親の居ぬ間に連れ込んだとしても、それはあらゆる手段で両親に伝わる恐ろしさ。
……時間も正確に。
恥ずかしいを通り越して、もはや辱めな拷問に値すると――当時を思い出すだけでゾっとする。
ある意味、洋平にとっては悍ましいトラウマで、彼らはスパイになれると評価できる仕事量を果たしたであろう。