門限9時の領収書
アラフォーにしては妖艶な笑みで、『交換条件。良平朝起こして』と、
母親がなんとも不条理な提案をしてきた。
ちなみに全く重要度がない情報だが、運動が好きな洋平の弟は月水金は早起きをしてマラソンをしている。
五時に起きる少年に付き合いきれないのだそう。
兄の目線で考えると、彼は走って何が楽しいのかは不明だったりする。
サッカー、野球、バスケは遊ぶ時に人数が揃わないからつまらないのだろう。……田舎の所以。
だからってマラソンを選ぶなんて、ここは皇居ではないというのに。
そもそも弟世代のクラスメートは外遊びをしないらしい。
家族で買い物に行く時も、夜ご飯を食べに行く時も、
映画を観に行く時も、いつだってポータブルゲーム機を持参して、
――彼らが友人と遊ぶ時、いつだってゲームばかりだ。
それが流行りなのだから仕方がない、洋平がどうこう言うものではない。
影鬼をしたり、ドロケイをしたり、……そんな遊びはしないのだろう。
走るだけで笑えるって素晴らしいのに。
便利になる分、人として欠落していく部分が増えるばかりだと思う自分は――やはり歳なのだろうか。
洋平たちの世代を三十代が歎き、その世代を五十代が歎き――いや、洋平たちの世代が三十代を歎き、その世代が五十代を歎き――
そうやって社会は素敵につり合いがとれているのかもしれない。
難しいことは洋平に分かるはずがない。
とにかく時代の流れで環境が変わるから、価値観は違う訳で、
そもそも同世代でも合わない部分があるのだから、
一概に生まれで括って物事を見ようが人間は十人十色なのだから、さほど意味はないのだろう。
なんて一見美しい結論に思えるが、見方を変えると答えをぼやかすどころか、
あやふやで何も断言できていなかったりするのは、細々しく考えることが洋平にとっては煩わしい作業だからである。
悩み抜くことが彼のマイブーム。