門限9時の領収書
母親より少し若い世代が青春時代を過ごした時のコンピレーションアルバムが爆発的に流行ったり、
昔のアニメの馬鹿高いDVDボックスが発売されたり、(なんとかバージョンとかで何回も)、
どうして大人は何十年も前の懐かしトークに盛り上がり、
なぜ今よりも昔ばかりをフューチャーするのか洋平には謎だった。
例えばバラエティー番組は、『俺らの時代の方が面白かった』と、
音楽CDは、『私らの時代の方が名曲ばかりだった』と、
いちいち今と張り合ってくるどころか、昔優秀説を唱える学校の先生が謎でしかなかった。
……が、洋平はなんとなく分かるようになった。
人生において最高に充実しているのは、きっと高校二年生。
大人たちは無意識に一番幸せだった時代を懐かしんでいるのだろう。
現実を頑張る彼らは、たまに今より昔に戻りたくて堪らなくなるのだろう。
しがらみのない無邪気なあの頃に、ああすれば良かったと。
あの頃の感覚は二度と味わえないどころか、生きていくと忘れてしまうから。
洋平も――結衣がいる今の時代を人生で一番幸せだったと将来懐かしむのだろうか。
今流行っているものを、大人になってから大人買いをしたり収集するようになるのだろうか。
“今”に縋るのだろうか。
――あるいは、懐かしさをバネにして、大人たちのように未来を見れる中年になれるだろうか……
五十歳になっても、“今”が輝いていると言える大人になるのだろうか。
そこに……二十三年後に、今の彼女が妻として居てくれるならば――――
……。
甘ったるい妄想に引かずに、可愛い空想だと拍手してあげよう。