門限9時の領収書

『洋平に。彼女……じゅうろく、はー、青春ですこと』

母親がぶつぶつ語り出したら、後は関係ない。

お風呂に入る為につま先の向きを回転させた洋平の目の前に居たのは――


『なにーお兄ちゃんカノジョー? すげぇーカノジョー?』

「、うわ、りょー」

『カノジョ! 見たい見たい見たーい』


タイミングを見計らったかのように登場する小憎らしいミニチュアな鬼。


前ボタンのチェック柄の可愛いパジャマを着る弟は、

初対面の人が見ても血の繋がりがハッキリと分かる顔をしている。

昔の自分にそっくりだ。
洋平といい雅といい、どうして兄弟はこんなに似ているんだろう。……少し怖い。

そういえば結衣は姉とあんまり面影がなかったような……


『見たい見たい見たいー』

『りょー、トイレ? もう寝る時間なのに』

『カノジョカノ――「うっさいうっさいうっさーい」

三回続ける癖が子供っぽく、お茶目な兄もそれを真似てみせた。

ちょうど良い場所にある頭をぐしゃぐしゃに混ぜてやると、

何がおかしいのか良平は爆笑。


女子高生イコール爆笑のイメージが強いけれど、この年代もよく分からないことに爆笑すると気付く。

靴下が汚れても爆笑、蚊が飛んでいても爆笑。
元気が取り柄、その通り。


洗面所へ向かう洋平の背に、『可愛いーの? 美女?』と、一人前に質問してくる辺りが生意気。

彼は白ご飯にチョコレートシロップをふっかけても笑いながら食べるのだろう。

無垢な若さは無敵で、まだ十代の癖に羨ましく思う。

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