門限9時の領収書
片付けるのが苦手なので極力物は買わないようにしているから、十畳の部屋にはベッドとコンポ、TVラックくらい。
またインテリアもゴチャつかせる自信しかない故に、あんまり飾らないようにしている。
高校生の一人部屋は六畳が主流だが、なぜ中流家庭の洋平の自室が十畳かというと、
部屋半分をパテーションで仕切り、作業部屋空間を入学祝いで貰ったからだ。
向こう側にはミシンや型紙や布やPCや、なんやかんやごちゃごちゃと詰め込んでいるので、実質六畳。
お茶目にスタジオと呼んでいるのは秘密。
リコッタチーズのような浮雲は太陽に被る事なくゆっくりと進む。
日光が反射している眩しい屋根は、もうすぐ夏が張り切り出すと知らせている。
‥‥
チャイムの音が夢を運び、落ち着きがない体の表面が冷たくなった。
うわっ、来た!
……なんか、緊張
ピンポンの後半が長い感じで、彼女らしさが分かる不思議。
出産に立ち会いたいが妻に断られ、待合室で待っていた旦那並に、
弾かれるように洋平は玄関へと駆け降りた。
これから始まるのは、十代男子にとっては念願のシチュエーション。
家に招待、親は外出、可愛い彼女、付き合って三ヶ月、密室に二人きり――――セオリー通りの完璧なシナリオ。
鍵を外す手が馬鹿みたいに震える。
(チェーンキー二つ、普通の鍵は三つ、近藤家は防犯が好きならしい)
くり抜かれた長方形。
隙間が広がる程にまばゆい太陽の日差しの中――……夏の天使を見つけた。
なんというひいき目マジック、これが特効薬がない恋の病だから仕方ない。
「ふ、あはは、来れた?」
恋に浮かされた洋平の唇からは、焼きたてチョコレートケーキの熱に溶けた生クリームのように蕩ける声が零れた。