門限9時の領収書

「田舎だろーはは、暑かった? 部屋クーラー付けといた」

「良かった、暑い……さっき玄関、前でシューしたもん、ふ、日陰ない、し……あはは。田舎へ泊まろう」


パタパタ扇ぐ手つき一つ可愛い。白くて細い腕さえ可愛い。結衣は可愛い。

肩にかけた薄紫のストールは全体と色が合っていないが、紫外線を嫌う姿がまた女の子らしくて可愛い。


  ……可愛い

洋平は自分が今どれだけにやけているか自覚していやしなかった。

常に無表情だと思っているのは彼の勘違いで、意外と素直に笑っていたりする。


「表札んローマ字、読めたんだ?」

そしてまた、つまらない茶々だが実は二十秒頑張って考え口にしていたりする。


踵が高い靴なので、結衣と目線を合わせやすい。

 …………。

スカートで来られたら、こちらとしても焦るので、

ストールとズボンを買ったとタイミングよくメールがきた時に、

ぜひ今日見たいと仄めかしパンツスタイルでと、なんとなしに要望しておいた。


それが予想外、ショーパンかよと洋平は既に胸中でツッコミを入れている。

よくやく渋っていた理由が判明した。《家族に会うかもなのに第一印象悪くない?》と。

なぜ抵抗があるのかとハテナだったが、なるほどショートパンツなら躊躇う訳だ。

マナーと言うか気配り心のある結衣を、また一つ好きになった。


「可愛いじゃん、服、とか褒めてみる優しい彼氏です」と、言えば、

同じように「あはは、近藤くん家着可愛いよ、褒めます彼女」と笑う。

こういう流れは凄く楽しい。つい笑顔が零れる。

愛の言葉を囁くよりは、笑いのネタ(薄くて内容がない駄弁り)を零したい――……

それなのに策略の上で愛を欲しがり、おびき寄せるような行動をしている矛盾。

なんだか申し訳なく感じた。

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