門限9時の領収書
ただでさえ甘い真ん丸の苺キャンディには、砂糖の粒が振りかけてある。
ただひたすらに甘い飴ちゃんよりはガム派なので、
「甘過ぎるくない? 砂糖の塊に砂糖を塗すとか……ありえん」と言って、
洋平はわざと鼻の穴を広げ変な顔をしてみせた。
「うわ、やだ、ぶりっ子じゃないし! ナシ、忘れて」
唇に人差し指と中指を添えて下を向く仕草さえ いちいちときめいてしまう。
そう、付き合う前から薄々と勘付いていたが、
彼女の結衣はぶりっ子に振る舞うことが不慣れならしい。
決して本人から聞いてはいないが、照れ隠しにガサツにふざける感じが幼いと洋平は気付いていた。
とは言え、計算をしない訳ではなく、たまにわざと可憐な小技を出してみせる。
しかし、たいてい可愛い子ぶった後は『はい狙ってみた』と、即効でごまかすから、
それさえ可愛いと思うポイントになる。
(世間ではぶりっ子オンナは嫌われるが、誰だって好きな人の前ではよく見せたいだろうから、
彼氏の前でのみなら自分は逆に可愛いと思う。容認派だ)
「あはは、顔おかしい、ウケる」
このように、クラスメートをはじめ女子高生は二言目にはウケると口にする。
非常に面白い特徴だと思う。
(ただ笑いのツボが浅いので、洋平の彼女はウケるを乱発するのだけれど)
田上結衣という人間が近藤洋平のツボだったようで……そんな彼女に彼が屈託なく笑い、
その彼の笑顔に逆に彼女が胸を弾ませ微笑み、今度は彼が――……と、
見事に連鎖することがバカップルだなんて、本人たちは気付いていないのかもしれない。
人はそれをイタいと言うのに。