門限9時の領収書
ユニークな結衣といえば、いつだって饒舌にお喋りをするはずなのに、一言で止まった会話。
全く彼女らしくない。
(ちなみに冴えない男子は、オウム返しをする女子が自分に共感してくれたと思うのか惚れ易いが、
会話の質を愉しむ洋平としては、自分のお喋りをなぞったまま言い返されると退屈なので、苦手だったりする)
気まずい。
もじもじした結衣は緊張しきっているらしく、ショートパンツの裾を握るから……――
ふと、洋平はチョコレートの香りを思い出した。
……。
「中学生あるある、オレ洋楽しか聞かないんだよねー」
HDコンポからプレイリストを探す動作をしつつ、――本当は彼女の様子を窺う。
あまり構えないでほしい、リラックスしてほしいから、「邦楽なんか聞かねーよ」と、
地元のクラスメートを真似て言ってみせた。
「やば、それヤバイ言ってた、そんな男子居たし。やめて、ウケる」
すると――お腹が痛いと結衣は笑い、いつもの調子に戻った。
……、良かった
もしかすると自分たちカップルは世間からずれているのかもしれない。
アヒル口で可愛らしくはにかむよりは、歯を剥き出しにして爆笑してくれる方が楽しくて幸せなのだ。
だから洋平は、「あはは、だよなー俺エーデルワイスとかボート?、それしか知らね。はは」と、笑いながらも呼吸を調え、
リモコンを動かす形をとり、「何にしよーか、普段曲聞かない人なんだよ、んーーじゃあ懐メロを」と、続けた。
(間を埋める為に“らしくない”――オチのない話し方をしてしまっていたのだけれど)
歌謡曲かと問うので、小学生の時に流行った歌を集めたCD―Rを友人がくれたと説明した。
「うそー、聞きたいーバンド流行ったよねーやたら。Tシャツにデニム、みたいな」
「あ、俺中学ん文化祭で真似したー、成り行きでギター、あはは」
「嘘ビデオないの? え、弾ける人? ピック投げた?、ふははウケる」
「弾けるかよ、ギターとか初めて本物見たし。はは。青春らしく夏休み特訓、」
お互い照れて無言だと心臓が持たないから、
BGMとして流れ始める色気ゼロな日常会話が自分たちらしくて嬉しかった。