門限9時の領収書
平日休みで土日勤務の仕事帰りらしいローヒール靴のお姉さん、
買ったばかりの雑誌を広げ討論を繰り広げる二十歳前後の男グループ。
電車の中に居る人の数だけあるお付き合いのルール。
右手に英会話教室のフラッグが見えたら、お別れの合図だ。
「じゃあ、真面目に宿題しなさい」
もうすぐ彼女の地元、降りる駅になり手を振る。
「うん!」
――このまま電車が止まればいいのにと思うなんて、危ないなと不安になる。
「バイバイ近藤くん」
「うん、バイバイ田上さん」
名字で呼び合う距離感――大好きな女の子は扉の奥へ。
言うまでもないが、結衣という人間は彼の大切な人。
そして今日もキスさえできなかった人。
そんな後悔を洋平に抱かせる特別な女の子。
レールのままに揺られ、窓の外には広がる闇――口づけの甘さはまだ知らない。
鋭い方には既にバレていることだろう。
お察しの通り、この物語は大好きな彼女と付き合って三ヶ月、
ファーストキスを夢見る三流男子高生の心情に迫るチープなスクールライフという訳だ。
果たして洋平は――?
……といった前フリから、とある彼氏のプライバシーを侵害していこう。
本人たち以外からすれば、心底どうでもいいのだろうけれど、
素直ではなく歪んだ二人の恋愛事情はあまりにお粗末で、
逆に暇つぶしには持ってこいな時間の有効活用となることに違いないと洋平は踏んでいる。
さて、彼の明日はどうなるのだろうか――
…‥