門限9時の領収書
中学生の時の結衣は、どんな姿をしていたのだろうか。
彼氏は居なくとも、……モテたに違いない。
真っ白な肌は炎天下の窓くらい眩しいし、丸い目は子犬のように愛らしいし、
少し丸みのあるホッペは赤ちゃんを思わせる柔らかみがあるし、細いけれどバランスが良いし、
とにかく可愛かったに間違いない。
(卒業アルバムも見たことがないし、プリクラ帳も高校からのしか見たことがない為、ただの憶測)
――――だから洋平は嫉妬している。
弾き語りに誘われたのか、路上を見に行ったのか、差し入れはしたのか、など。
昔話の登場人物、面識のない男子全般を嫉視している。
(くどくなるが、洋平に呆れず『ヤキモチやかれる彼女なんて幸せ者ね』のアングルで話を進めてあげよう)
可愛い以外に何と説明すればいい。
同じ中学に通いたかった。
同じ地元が良かった。
同じ町内が良かった。
同じマンションが良かった。
なんでもかんでも知りたくて、過去ごと傍に居たい癖に、
そんな風に執着するのは格好悪いので、洋平は束縛心を表には出さない。
(それがまた最高に格好悪いのだけれど、彼の性格上、露骨に束縛なんかできない。
事由は報告するまでもないが、彼女を愛蔵したがる気持ちが行き過ぎればデートDVとの境目が分からないからなんだとか)
いつも結衣の男関係に突っ込んで聞けないでいるのは、単に自分に勇気がないせいだろう。
……情けないったらない。
潔く尋ねたら済む話なのに。
今更になるが、普段の洋平はうじうじ悩むタイプではないことを明言しておこう。
ただ、ここ最近の彼は、単純に小さいことを分析することが余暇活動の一部だから、
こうやって、わざとあれこれ考え込む自分を演じているだけなのだ。
もしかすると、明哲な方には既に洋平の奇行理由がバレているかもしれないが、
暴露するのはまだ先のお話――――と、引き寄せの定番を活用しておく。
卒業しても、就職しても、半世紀後も、ずっとずっと結衣の隣で笑うのはいつだって自分でありたい。