門限9時の領収書
オレンジ味のアイスクリームをディッシャーで綺麗に掬ったような子供らしい太陽、
トッピングに生クリームを絞ったような雲、
結衣に恋をしてからの洋平は、なぜだか世界が甘く見えるようになった。
執念深い自分が嫌になる。嫌いになる。
だから――……
「あ、それより ほら。初っ端から懐いよ」と、無理くり話を終わらせ再生ボタンを押した。
半年ぶりに電源を入れたコンポからは、がむしゃらな爆音が炸裂する。
ボーカルとギタリスト、ベーシストとドラマーが揃ったストレートな歌詞が魅力の若いバンドは、
本当に当時流行っていた。
クラスメートは何派と何派で分裂してとにかく人気だったし、
Tシャツにデニムにスニーカーというファッションが支持されたし、
学生時代の仲間と成し遂げる学園祭風な感じが青春って感じで憧れで――
耳にした瞬間、きっと同世代はタイムスリップしてしまう。
ここ最近、トレンド市場はオシャレに作詞までしちゃいますのガールが人気らしく、
またオシャレに韻踏んで友情最強ボーイがポピュラーらしく、
洋平たちが小中入れ込んだバンドは解散したと噂で聞いた。
全然知り合いでもないのに虚しいのは何故。
いつかの日、再結成してくれたら良いのにと願うばかりだ。
チョコレートの包み紙を開ける結衣の指先から二の腕にかけてのラインは細くて、
ウエディングドレスのグローブが似合うと洋平は誰にも共感されないことを思う。
自分の部屋にお姫様が居る感じに慣れないせいで、
「それよりー……」――お喋りが止まらなくなるなんて、凄く凄く格好悪いと洋平は自覚するも唇は忙しく動き続ける。
透明で見えないクーラーの冷気に、やんわりと体を包まれた。
床に置いたポスター、ラックに並べた雑誌、五分早い壁掛け時計、ここが自分の部屋――出来損ない王子が暮らす小さなお城。