門限9時の領収書
時代に浸ることも、今を生きる醍醐味だったりすると洋平は思う。
馬鹿げていると否定せずに、たまには流行りに乗っかると愉快だからそっちを選んでみたい。
「ミーハーに聞く方がさ、過去のランキングたまに特集あんじゃん、歌番組。そん時に浸れるよな?」
「分かるーとりあえずトップテン抑えときゃ数年後にスーパーでオルゴールみたいなんかかっててさ、めっちゃ懐いの」
「だよなだよな、だからミーハーって幸せだよな。個性関係ない」
「私ばりばりミーハーで行くよ。だってヒッピーをボヘミアンって、それ去年モロッコ風って言ってたもん」
ファッション雑誌のキーワードを謡う結衣が可笑しくて、ホッペの筋肉が痛む。
内容がない駄弁りも、好きな人とやりとりするなら特別で、
「俺らみたいなんが日本経済を救うんだよ」と、言えば、
ゆるい笑いが生まれる起爆剤となる幻術。
こんな風に笑顔がある関係は、きっと抱き合う関係より尊い気がした。
――と、しつこく三回繰り返してみたら、定義は知らないがサブリミナル効果とかいう片仮名パワーで、
洋平の支持層は増えないものだろうか。
なんか……。
年頃の男女が密室に居て、そこに濃密な妖艶物質が増えないなんて、逆に伝説だと思える。
中学生以下のお喋りを繰り広げる自分たちは一体何なのか。
これが普通の男子ならば、とっくに服を脱がせにかかっているはずだ。
いいや、さっさと済ませているはずだ。今は愛の言葉をぺらぺらと囁いている時間帯のはずだ。
現に警戒していない結衣を寝かすことなんて、とっても簡単。
だって洋平には女に勝つ力があるし、一人だけれどとりあえず経験があるし、短絡的に見れば高校生だし。
、だって……
…………。
ちょっと手を伸ばせば、(保護者たちからすれば眉をひそめるであろうリーズナブルな類い)夢は容易に叶う。
付き合っている、三ヶ月、恋人、彼氏彼女、両思い――パーフェクトじゃないか。