門限9時の領収書

時代に浸ることも、今を生きる醍醐味だったりすると洋平は思う。

馬鹿げていると否定せずに、たまには流行りに乗っかると愉快だからそっちを選んでみたい。


「ミーハーに聞く方がさ、過去のランキングたまに特集あんじゃん、歌番組。そん時に浸れるよな?」

「分かるーとりあえずトップテン抑えときゃ数年後にスーパーでオルゴールみたいなんかかっててさ、めっちゃ懐いの」

「だよなだよな、だからミーハーって幸せだよな。個性関係ない」

「私ばりばりミーハーで行くよ。だってヒッピーをボヘミアンって、それ去年モロッコ風って言ってたもん」


ファッション雑誌のキーワードを謡う結衣が可笑しくて、ホッペの筋肉が痛む。

内容がない駄弁りも、好きな人とやりとりするなら特別で、

「俺らみたいなんが日本経済を救うんだよ」と、言えば、

ゆるい笑いが生まれる起爆剤となる幻術。


こんな風に笑顔がある関係は、きっと抱き合う関係より尊い気がした。

――と、しつこく三回繰り返してみたら、定義は知らないがサブリミナル効果とかいう片仮名パワーで、

洋平の支持層は増えないものだろうか。


 なんか……。

年頃の男女が密室に居て、そこに濃密な妖艶物質が増えないなんて、逆に伝説だと思える。

中学生以下のお喋りを繰り広げる自分たちは一体何なのか。


これが普通の男子ならば、とっくに服を脱がせにかかっているはずだ。

いいや、さっさと済ませているはずだ。今は愛の言葉をぺらぺらと囁いている時間帯のはずだ。


現に警戒していない結衣を寝かすことなんて、とっても簡単。

だって洋平には女に勝つ力があるし、一人だけれどとりあえず経験があるし、短絡的に見れば高校生だし。


 、だって……

  …………。

ちょっと手を伸ばせば、(保護者たちからすれば眉をひそめるであろうリーズナブルな類い)夢は容易に叶う。


付き合っている、三ヶ月、恋人、彼氏彼女、両思い――パーフェクトじゃないか。

< 93 / 214 >

この作品をシェア

pagetop