門限9時の領収書

「懐かしー替え歌ー」

「俺あれ好きだったよ、私とイヌと、イヌとあなたーとかなんとかの」

「あー懐い! あった。なんか歌番組出たよね? あはは」

街でバッタリ旧友に会った時のように嬉しそうにテンション高く笑う結衣は可愛くて……

可愛いのは狡い。憎い。


TVが見えやすいように隣に座った距離は、映画館の方が近いのが憎い。

無防備なまでに、こちら側へと寄せられた白い足が憎い。


だから洋平はひたすら画面ばかりを見たまま勘を頼りにお菓子を摘むばかりしたお陰で、ちょいちょい零してしまった。


クーラーに乗せられた甘いシロップのような香りが挑発してくるものの、

楽しそうに笑顔を見せる彼女を尊重したいので、正直映像はちっとも頭に入らないけれど、

雰囲気だけに合わせて洋平は笑っていた。

今の状態ならば、疲労で疲れた、――と言える自信がある。


ウケる、やばい、おかしい、と片手で足りるくらいの単語を専門に扱う彼女は、

彼氏の気持ちに何も気付かないのか、終始笑いっ放しの為、

洋平もただただ笑ってやり過ごしたことは、

高校生男子として、生き地獄感が少し気の毒過ぎるから秘密にしておこう。


本当におかしい。
今日のようなモチベーションだと、普通は恋愛映画でも見て自然に電源を切るだろうに。

――自分たちはお日様が似合う。

服を脱がすにはぴったりな お月様は味方をしてくれないらしい。


とりあえず放送三回分を見て、一旦休憩することにした。

……正常な方の計画通り過ぎてむなしいったらない洋平で、

恋愛モノには何かしらトラブルやハプニングがつきものなのに、通常の少年には関係ないらしい。

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