門限9時の領収書
「再開すれば良いのにねー、経費ないのかな」
首を左に傾ける結衣の耳で光るのは、見えないくらいの小さなピアスと、
きめ細かい鎖骨に這うのは、チェーンが見えないくらいの華奢なシルバーネックレス。
これも彼氏の家族に気を遣いつつ、洋平のことも考えてくれた結果なのだろうと、
また好きになって良かったと実感する。
かわい……
少し引き締められた唇は、グロスが中途半端に落ちており、妙に女らしさを感じた。
爪磨きは擦れば擦る程煌めきを増すのなら、彼女の唇にキスをすればする程潤みは増すのだろうか。
……――それでも、
返事を待つ少女の瞳にとらわれた少年は、「特番でもいいから復活してほしいよな」と、
素敵な彼氏を演じにかかっていた。
結局、洋平は洋平だから迂闊に保護者の期待を裏切らない。
なんか……
……。
ゼラチンを入れたら固まる液体――お菓子作りは繊細で、少しした工程で見た目が変わる。
彼女の後ろにあるのは、太陽の光りが注がれた――夜になると眠る場所。
楽しい夢が見られる場所。
これから先、結衣が一番馴染む場所になればいいと――……
彼女が幸せを感じる場所になればいいと――……
色付けてしまいたい。
台本を書き換えて、乙女がドン引きするであろう年齢制限アリな艶やかで濃厚な世界に塗りたくってしまいたい。
簡単、本当に簡単なのだ。
唇を味わいながら手で愛を作るくらい。
甘い夢を見させてあげることくらい。
だって、高校二年生なのだから。
実際いざという時に必要なものは用意してしまっていることに、不純な動機はないと言いたい。
むしろ千円以内の誠実な愛の証拠。
……けれども、どうせ保護者の半分からすれば、若いだけのこじつけだとうんざりされるのだと知ってしまっている自分が、
なんだか物分かりが良すぎて嫌になる。
優等生な恋愛では物足りなくなる。