門限9時の領収書

結衣は極端にうぶだとか男慣れしていない訳ではないように思う。

現にクラスメートの男子と談笑しているのを多々見かけるし、

待ち合わせの時に彼女はナンパをされていたが、ノーマルに笑って交わせていたので、

それなりに女子高生の一般常識レベル――

(ちなみに一般常識とは世間でのマナーではなく、この場合女子高生らしい立ち振る舞いのことを指す)――を、賄っている。


だが、それは恐らく“異性”と見做していないから可能な振る舞いで、

――結局のところ、慣れはしていない。


  んー……

 俺別に草食じゃないんですけど

  てか十六、

 がつがつしてるに決まってるだろ

  俺が悪い訳じゃない、……

 ……うん。


つまり、こちらばかりが男女を意識することが罪な気がして、

どうにかケーキを切り札に洋平は逃げてきた訳だ。


あのまま隣でお利口さんをする自信がなかった。

二階に戻ってから、……さて どうしよう。

ビデオの続きか、あるいは友人から借りたままの脱力系シュールアニメDVDを見ようか。

とにかく気を紛らわせなければ。

普通の男子なら違うことを考えて喜々としているのだろうけれど。


頼りなく注がれるのは彼女が大好きな百パーセントのオレンジジュース。

(肌に良いとかなんとか。どうして女子は美容話になると得意げに語るのだろうか)


薄いピンク色の箱から飛び出たのは、ベイクドチーズケーキ。

甘い香りは六つ、彼氏と彼女で二つ、恐らく残りは家族と……“洋平”の分。


  ……おかわりとか、可愛いな

 可愛いよな、別に全然幼くないんだけどさ

  かわいーって、うん

誰かに自慢したくて堪らない存在の結衣の恋人であれて誇りに思う。


階段を一段一段上がる度に好きが増える気がした。

毎日利用しているただの階段なのに。大袈裟な恋心の主は、もちろん洋平だ。

< 99 / 214 >

この作品をシェア

pagetop